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硫黄島・沖縄戦場日記 保坂廣志

硫黄島・沖縄戦場日記

 保坂廣志 著

  印刷版(POD) 第1巻(B5版 283頁) 2,400円+税  アマゾン   直 販
           第2巻(B5版 247頁) 2,200円+税  アマゾン   直 販

  ISBN:9784907625542(POD1)、  9784907625559(POD2)
  2021年6月1日刊

  グーグルプレビュー

戦場日記

 硫黄島や沖縄において、米軍は日本兵の日記を系統的に収集し、翻訳を行った。日記には日本軍の行動や内部情報も記されることがあり、機密あるいは戦争犯罪に関わる情報を入手すべく、米軍は作業を進めた。

 一方、厳しい私物規制がある中で、日本兵は家族の写真や手紙、日記帳などを携帯し、敵との遭遇戦に挑んでいる。日本兵にとり日記は、自己が生存している証であり、戦場の怒りや悲しみを整序できるものであった。日本兵日記は、多くは戦場で廃棄され、わずかなものが英訳され米国に残されたが、陽の目を見ることは少なかった。今回硫黄島や沖縄戦で英訳された約30人の日記を収集し、日本語に反訳したものが本書である。

 併せて沖縄戦に参戦した米軍兵士およびヒストリアンの日記も掲載した。日米兵士を問わず日記は、文字通り「生の叫び」であり、生命の危機を実体験したものだけに可能な戦場証言である。敵味方が対峙し、敵の命を取ることに血眼な状況下、人は何に思いを致し、生をまなざしたかをあらためて感得したいものだ。

 第1巻は日本兵の、第2巻は米兵およびヒストリアンの日記を取り上げる。

はしがき

 戦場で記された日記は、阿鼻叫喚の現場を生の筆致で記した記録である。戦場で書くという行為は、自らの生の痕跡を残そうとする積極的意志の現われであり、優れた人間的試みであるだろう。

 本書は、一人の硫黄島参戦者と米軍関係者の日記を除き、一度日本語から英語に翻訳されたものを再度日本語に戻した反訳書である。戦場の元風景が消えてもなお、エピソード記憶が残る硫黄島・沖縄戦場日記は、特異な戦争記録であり、後世への貴重な財産でもある。

 沖縄戦に関しては、日米両国に膨大な史・資料や著書、証言、映像等が残されている。それでもなお、沖縄戦の伝録は止むことがない。その中に今回新たに、硫黄島・沖縄戦場日記を世に問うたのは、この世の地獄とも称される戦場下、日記作者(所有者)は何を筆に留めんとしたか、何を伝えようとしたかを明らかにしようとしたからである。

 死を賭して敵陣に斬り込み攻撃を行う際、日本兵のほとんどは、「日記」を後方に残置して出陣している。だが中には、懐中深く日記を押し隠し、戦死する者もいた。今回反訳を試みた日記のほとんどは、兵士の死体から見つかったものである。敵に押し込まれ、火炎にあぶられつつも、生還を期し、分身よろしく日記を抱いて吶喊(とっかん)を叫んだのだろうか。

 分かっているだけでも沖縄戦では、兵士、民間人あわせて百人以上にも及ぶ戦中日記が見つかっている。民間人日記は、『沖縄県史』を始め県内市町村史に多数、紹介されてもいる。おそらく一戦場で記録に残った日記の数としては、世界でも例をみないほど沖縄戦は多数だろう。その時将兵は、民間人は確かに胸奥を紙片に叩きつけ、戦場の知も情もそこにねじりこんだのだろう。

 そもそも私が戦場日記に関心を持ったのは、戦場下の人間の息遣いに興味を抱いたことに始まる。日記には見出しや文の組み立てはなく、人の呼吸と同じく自然に筆を走らせたのが理解される。

 戦場日記には、多くのことが書かれている。例えば、戦場仲間の死の現認や家族への追慕、敵への報復や反攻への確認、信頼や祈り等々である。遺書めいた記述はほとんど見当たらず、死を予兆するような記述も見当たらなかった。狂気の戦場にあり、暴力が全てを支配する戦場下での日記は、怒りや火照りを収める道具であったかもしれない。筆の先には、間違いなくめらめらと燃え立つ憎悪や憎しみがあっただろう。それでも兵士は仲間を信じ、勝利を信じ、そして家族や明日の日本を信じていたことが判明する。そうすると日記の解読には、戦争本来の憎悪の根源や人への慈しみを俯瞰するような、もう一つ別な観察眼が必要になってくるかもしれない。

 ところで、日記とは、自他を照らす社会性を宿したもので、偏に個人に帰趨できるような簡単なものではない。戦争を通して日記を見ると、当然そこには平時の社会通念を超える特有な自他関係が見て取れる。例えば、生死のことであり、敵の命をどう取るかや、戦場では思うことのみ許される家族や知人達への愛情等である。日記を書いた兵士らは、日記を誰かの手に委ね、後日読んでもらおうとは考えていなかったはずである。戦場下の兵士の死体から発見された日記は、奇遇な運命を経て、私どもの前に出現したもので、歴史的郵便物ともいえるものだろう。そこから日記の受取人は、証言する者なら誰でもなってよいことになろう。特異な歴史の中で、壕中深く手探り状態で書かれた日記ならば、声を出して読み上げても誰も注意はしないだろう。

 本書で紹介する40人余の日記は、文字どおり「生の叫び」である。彼らの日記は、生命の危機を実体験したものだけに可能であった証言である。敵味方が対峙し、敵の命を取ることに血眼な状況下、人は何に思いを致し、生をまなざしたかをあらためて知りたいものだ。

                      2021年5月20日 
                       保 坂 廣 志   

目次

第1巻
 口絵写真
 はしがき
 凡 例
 第一部 硫黄島戦場日記
  硫黄島の戦闘
  (1)久保田少尉日記
  (2)硫黄島の日記:オムニバス
  (3)杉原千歳中尉日記
  (4)氏名不詳者の硫黄島日記
  (5)高野四郎曹長日記
 第二部 沖縄戦場日記
  1 沖縄戦への道、中国戦線、県内疎開
  (1)箱崎すすむ伍長日記
  (2)民間人疎開者の日記
  2 沖縄離島
  (1)宮下くらじ上等兵日記
  (2)徳永おね兵士日記
  3 沖縄本島北部
     特攻隊員の沖縄日記
  4 中部石川岳
  (1)氏名不詳の兵士日記
  (2)氏名不詳の兵士日記
  5 北部の戦闘
  (1)武下一中尉日記
  (2)浜川智宏警部補日記
  (3)「ヤス子は花」という日本兵日記
   6 嘉数地域の戦闘
  (1)宇田ひさみつ一等兵日記
  (2)鳥井幹雄少尉日記
  (3)高橋上等兵日記
  (4)第273大隊兵士日記
  7 浦添 ハクソー・リッジの戦い
     第32連隊兵士の戦闘日記
  8 日本軍総攻撃 5月4日
     平畑つねお兵士日記
  9 シュガーローフ・ヒルの戦闘
     京都兵士日記
  10 首里攻防戦
  (1)神崎すすむ水兵長日記
  (2)氏名不詳の大隊長日記
  (3)荒川秀夫一等兵、及び氏名不詳者日記
  (4)貝田准尉日記
  (5)氏名不詳の陸軍兵士日記
  (6)寺尾じんいち兵士日記
  (7)川村少尉日記
   11 沖縄南部
     民間人 与儀達清戦場日記

第2巻
 第三部 米軍将兵の日記
  1 海兵隊員
  (1)カーライル・ノウス第1海兵連隊員日記
  (2)ウオーレス・リトルジョン曹長日記
  2 第28写真偵察隊員
     ユージン・ニューバゥアー軍曹日記
  3 米軍野戦病院
     オリバー・M・セル病院長日記
  4 米従軍記者
  (1)ロバート・シャーロッド記者日記
  (2)アー二ー・パイル記者日記
 第四部 米軍ヒストリアン日記
     オキナワ・ダイアリー
 あとがき
 付 録
  A 米軍組織と通訳部隊
   1 第1情報・戦史任務課
   2 二世語学将校アミオカ少尉
  B 日記一覧
   1 米軍が硫黄島・沖縄で鹵獲した日本兵・民間人日記
   2 沖縄戦で存在が確認された日記
 索 引
  事 項
  人 名

著者紹介

  保坂廣志 (ほさか ひろし)
   1949 年 北海道生まれ
   1974 年 東洋大学社会学部応用社会学科卒業
   1976 年 東洋大学大学院社会学修士課程修了
   琉球大学法文学部講師、助教授、教授を歴任
   現在、沖縄戦関係を中心とした翻訳業に従事
     著書 戦争動員とジャ-ナリズム(1991, ひるぎ社)
        争点・沖縄戦の記憶(2002, 社会評論社 共著)
        陸軍暗号教範(2013, 紫峰出版 共編)
        新教程日本陸軍暗号(2013, 紫峰出版 共訳)
        沖縄戦のトラウマ(2014, 紫峰出版)
        沖縄戦捕虜の証言(2015, 紫峰出版)
        沖縄戦の集合的記憶(2017, 紫峰出版)
        米軍政府と民間人収容地区(2019, 名護市役所 監修)
        資料集 石川・宮森の惨劇(2019, NPO 法人石川・宮森 630 会 監修)
        あの日の記憶―石川・宮森ジェット機墜落事件(2020 年,紫峰出版)
        

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